【インタビュー】わたしたちはこの世界でどのように働きそして遊ぶのか【第一回】

富田宇宙

視覚障害を持つ当事者の日々の過ごし方に迫るインタビュー企画。今現在の「働き方」「遊び方」を中心にこれまでの人生、そしてこれからの人生について聞く。

第一回 職業:パラ競泳選手 名前:富田宇宙 

「働き方」

試合で結果を出す仕事

仕事はアスリート雇用という形なので、基本的には会社に行くことはありません。毎日トレーニングをして、試合で結果を出すのが仕事です。トレーニング以外の時間は体のケアをしたり、英会話をしたり。大学院にも在籍しているので、勉強や研究にも力を入れています。

仕事がある日はルーティンがあって、朝起きたらストレッチ、瞑想、体調管理のアプリの入力【※後述】、メールチェックをしてから、英語のシャドーイングをします。そのあと朝食を摂ってから午前のトレーニングです。今は国立科学スポーツセンターというオリンピック・パラリンピック選手のための施設に住み込んでいるので、宿泊施設に食事、プール、ジムがオールインワンになっています。同じビルの中で全て完結してしまうんです(笑)。

トレーニングの後は、すぐ横に食堂があるのでそこで昼食をとって、タスクを消化したり、休んだりしながら14時ぐらいまで過ごします。それからトレーニングを17時まで。夕食を18時にとって日によってはそのあと英会話に行きます。英会話はバスでちょろっと行ったところにあるので、レッスンを受けてすぐ戻れます。夜はお風呂に入ってストレッチ。またちょっとルーティンをこなしてから、だいたい22時くらいまでには寝るようにしてますね。お風呂は大浴場もあって、サウナとかジェットバスもついてるんですよ。今の生活は凄く特殊ですね。

諦めた夢〜現在の仕事へ

子供の頃は宇宙開発関係の仕事に就きたいという気持ちがあったので、機械工学とか宇宙航空工学を勉強したいと思っていたんですけど、高校生の時に視覚障がいがわかって。その時点で夢を諦めざるを得なくなりました。私は網膜色素変性症という病気で徐々に見えなくなっていったんですけど、障がいがわかった時点で、最終的に失明してもできる仕事を調べて、それまで目指していたこととあまり離れていない方向性で職業を探しました。それでシステムエンジニアなら音声読み上げを使ってパソコンを操作することで働けるということを知ったんです。それからはシステムエンジニアを目指して、大学卒業後はソフトウェア会社に就職して働きました。

スポーツは、高校生まで水泳をやっていたんですけど、目が悪くても健常者として取り組める競技がしたくて、大学では競技ダンスを始めました。約6年間、社会人2年目までなんとかアマチュアの選手として活動したんですけど、視覚障がいが進行してきて健常の選手として第一線で続けることが難しくなってしまって。パートナーにも迷惑をかけてしまうので、潔く諦めて引退することにしました。その頃から視覚障がい者としてできる活動を探すようになって。私にできるパラスポーツはないかと。それで以前やっていた水泳ならできそうだと考えたんです。それまでは健常者として過ごしてきたんですけど、それに限界が来たというか、人の手を借りないとできないことが増えてきて。そうなると障がい者という立場がはっきりしたところで活動しないと、サポートを受けたり理解してもらったりが難しいとわかったんです。それでパラスポーツの世界に入りました。そうして働きながら水泳をやっていたら、パラアスリートを探していた今の会社を紹介していただけて、パラアスリートとして転職した、というのが経緯です。

「遊び方」

感性が磨かれる、何かが得られる娯楽

余暇の過ごし方としては最近は英会話が一番多いです。他には読書や落語、ジャズやオーケストラを聴きに行ったりもします。芸術鑑賞が好きですね。目が見えなくなってから、見えなくても楽しめる、聴覚に訴えるコンテンツに惹かれるようになりました。寄席に行くと一人で腹を抱えて笑ってしまうので噺家さんに突っ込まれたり(笑)。自分も話すのが好きだし、人前で話すことも多いので、ただ楽しむだけでなく勉強にもなります。そういう自分の糧になるという感じも好きですね。あくまで娯楽なんですけど、ただ楽しむだけでなく、感性が磨かれたり、知識欲が満たされたり、何かが得られる娯楽が特に好きなんだと思います。

オフの日はスポーツセンターから大学の寮に帰ります。特別な予定がない日は大体過ごし方が決まっています。午前中に片付けとか細かい仕事を片付けて、昼から外に出ます。最近ハマっているのはオイルマッサージ。だいたい2時間、14時〜16時くらいで受けます。そのあとはそのすぐ近所で英会話を受けます。それもだいたい2時間くらいですかね。あとは寮に戻って夕食を食べて、ストレッチして入浴して寝る、という感じです。

オフの日の夕食は友人と美味しいものを食べに行ったり、外食も多いです。普段は寮やスポーツ施設の栄養を一番に考えた食事ばかりなので、外食するときは思い切り良いお店に行きます。お店はネットで探すか知り合いに聞くことが多いです。イケてる飲食店に詳しい知人がいるので、本当に良いお店に行きたいときは人に聞くようにしています。いいものを食べると自分の世界を広げてくれる感じがしますし、質の高いお店だとスタッフも一流です。何より雰囲気がいいですよね。そういうところから自分も何かいいものを得られる気がするんですよ。とても大切な時間ですね。

極たまにですけどお酒を飲むこともあります。選手になる前はウィスキーとワインが好きでそれなりに飲んでたんですけど、最近は特別なイベント、例えば結婚式とか大事な人のお祝いとかでいいものを少しだけ飲みます。居酒屋でビール、みたいなことはしてないですね。好きなウィスキーはアードベックとかラフロイグとか。白州とかのブレンディッドも飲みますけど、シングルモルトが多いですかね。あくまで素人ですけど。昔、恵比寿によく行ってて、知り合いのマスターに少し教えてもらいました。とにかく落ち着くお店が好きですね。

ジャズが聴けるバーに行ったりもします。昔、歌舞伎町で凄くいいお店を見つけてお気に入りだったんですけど、当時から場所が曖昧なまま行ってたので、見えなくなったのもあって今はもう場所がよくわからなくなってしまいました(笑)。休みたい時は家でもジャズを聴くんですけど、選手としてはテンションを下げすぎてもよくないので、最近は頑張ってロックも聴いています。そういえば話が少しそれますけど、今、歌舞伎に行きたいなと思ってるんですよね。見えないとやっぱり画面越しに得られるものが少ないからか、そういう生演奏とか観劇とか生のものに触れたい欲求が強いのかもしれません。

昔から何でもやってみたいという好奇心が強いので、オフでも時間が空くとすぐに予定を入れてしまいます。特に自分にプラスになることをするのが好きですね。体を鍛えたり勉強したり、自分の成長を感じられることへの喜びが強いかなと思います。目が見えなくなってからその傾向は余計に強いかもしれません。人並みにやっていても評価されにくいというのを肌で感じるので。自分が何かで上に行こうと思ったら、ハンデがあるぶん人より努力が必要だというのはいたしかたないと思っています。システムエンジニアをやっていた時も、周囲の人が持っていない資格を取ろうとか、最新技術の情報を収集したりとか、それなりに意識的に勉強していました。ただ、根本的には負けず嫌いというよりは、自分が勝手にやっている感覚です。意外と一人でこそこそやってるのが好きなんですよ。見えてた頃、釣りが趣味だったんですけど、あれって誰と競うわけでもなく一人で突き詰めるものじゃないですか。人がどうこうというよりは自分で自分の世界を突き詰めたい性格かなと思います。

趣味と勉強を兼ねる読書

本はネットから朗読図書をダウンロードして聴いています。点字のデータも音声変換できるので、朗読図書が無い本は点字を音声で聴きます。最近読んで良かったのはクリス・クラッチャー(Chris Crutcher) の『君のためにぼくができること』。子供向けの小説なんですけど、差別の問題、宗教の問題、社会的な問題に子供達が出くわす中で、ディスカッションやディベートを繰り返しながらいくつかの事件と向き合っていく。その過程で子供達が変化し、自信の立場や周囲との関係性の在り方を理解するという話です。別に障がいをテーマに書かれているわけではありませんが、私が今取り組んでいること、パラリンピックを通じてソーシャルインクルージョンや障がい者理解を求めていこうという活動に少なからず通じるところ、気付かされるところが沢山あって共感できる内容なんです。私にとっては学びの多い本でした。別に真面目な本ばかりではなくて、ライトノベルとかも読みますし、ザックバランに気になった本を読み漁ってます。

司馬遼太郎は大体読みました。障がいを持って生きていると、世の中に対してもっとこういう風になった方がいいのにとか、こういうところが生きづらいなといったようなわだかまりがあるんですよ。そういう日々の中で、明治維新の志士のようにエネルギッシュに革命を起こしていった人達のストーリーに触れると、私は命かけて戦うわけではないですけど、自分もこういう風にできるんじゃないかと思ったり、人と人との繋がりで組織や社会に動きや流れを作っていくプロセスを学べたり、勉強になります。そういう学びは実際に組織や社会の中で行動していく上ですごく役に立っていて、自分の生き方に影響を与えています。本物の龍馬があんなにかっこよかったかどうかはわかりませんけど、憧れますね。『坂の上の雲』や『竜馬がゆく』などは、歴史的な資料としてどうこうというのは抜きにして、とにかくキャラクターが響いてきますね。

あと(村上)春樹も好きですね。春樹は憧れってわけでもないですけど、憧れたらハルキストになっちゃうんで(笑)。夢があるとは思います。主人公の男を惹きつける独特の魅力というか。文体の雰囲気がとにかく好きです。古典だと漱石、太宰、三島。純粋に面白いのもありますけど、教養として知っておきたくて、つまらないながらも読むみたいな時もあります(笑)。でも朗読図書だと目で読むよりは気軽に読めますし、自分が止めない限りは勝手に進んでくれるので、負荷は低いと思います。ながら読みできますし。そういう意味では朗読図書を読めるようになったのは、見えなくなって知ったことの中で最もよかったことですね。見えなくなったおかげで読書家になれました。

本から得た教訓、言葉

私は毎日アプリで自分の体調と心理状態を記録していて、その中のいくつかのパラメータを自分の教訓にカスタマイズしています。朝、達成度の予想を立て、夜、実際の達成度を入力します。例えば極力周りの人を褒めるとか、極力自分が笑顔でいるとか、そういった自分を評価する値です。それらは本からの影響が多くて、いいな、自分もこうしたいな、と思ったことをそこに書き込んで自分の軸にしています。

特に大事にしているのは「一日一生」という言葉です。それも本からいただきました。現代の生仏と言われた、酒井雄哉氏の『「いま」このときを、生きる』という本にあった言葉で、大まかに言うと、とにかく人が生きていく上で重要なことが全て書いてあるような本です。この本には凄くインスパイアされました。学びが多くて、私の考え方に強く影響を与えていると思います。一日一生というのは、一日を自分の一生だと思って朝起きてから夜寝るまでに全てをやりきる。その日にできることを全部やる。そういう日々を積み重ねていく中で人生が良くなっていくという、そう聞くと当たり前のことなのかもしれませんけど、自分に刻み付けたい大切な言葉なんです。あともう一つ、「タオのエナジー」というのも大事にしています。タイトルが変なんですけど『「おっぱい」は好きなだけ吸うがいい』という本から学びました(笑)。タオのエナジー、つまりは母なる大地からのエネルギーを、自分に取り込みながら生きていくことで豊かになれるという思想、タオイストと呼ばれる方々がいらっしゃいまして。そのタオイストであるところの翻訳家、加島祥造氏の本です。そういった生き方について解説しつつ、それに通じる著名作家、思想家の共通点、根底に流れるものを解説する本だったんですけど、それも結構自分の中に残っています。それで、「一日一生」と「タオのエナジー」は最も重要なパラメータとして設定しています。

アニメと漫画、見えていた頃の趣味

実は見えていた時は読書よりもアニメの方が好きでした。もともとそういう目を使う趣味が多かったので、見えなくなってから趣味嗜好は大きく変わりましたね。アニメとか漫画とかはまさに目で楽しむものですし、前述の釣りも本格的にやっていたんですけど、見えなくなってできなくなってしまいました。他にもプラモデル作ったり。楽しめることがなくなってしまって、最初はとても苦しかったし、今でも時々夢に見るほどです。やはり視覚を失うことが趣味や娯楽に及ぼす影響は大きいと思います。

アニメはなんでも観てました。ロボット系ではガンダムとか。初代のガンダムに続く宇宙世紀と呼ばれるシリーズが特に好きで、ちょっと外伝ですが『機動戦士ガンダム0080ポケットの中の戦争』、『機動戦士ガンダム0083スターダストメモリー』なんかもお気に入りです。地味だけど泣ける、みたいな作品が結構好きでした。他にも松本零士に代表されるようなSF系の作品も好きでしたし、ライトノベルや美少女ゲームが原作になっている京都アニメーション(以下京アニ)の作品も見てましたね。時期で言うと『涼宮ハルヒの憂鬱』、『灼眼のシャナ』などの頃です。でも京アニの作品で特に好きだったのはやっぱり『フルメタル・パニック!』。第一期はGONZOという別の制作会社だったんですけど、第二期から京アニになって嬉しかったのを覚えています。本当に幅広く色々観ていましたね。もちろんガンダム以外の富野由悠季監督作品も好きで、『ブレンパワード』とか『キングゲイナー』とか。他にも世代的には『無限のリヴァイアス』、『機動戦艦ナデシコ』もハマりました。『新世紀エヴァンゲリオン』も好きですけど、派閥としてはガンダム派という感じです。一番は『機動戦士Z[ゼータ]ガンダム』。最近のガンダム作品でも、ノベライズされたものは今も朗読図書で読んでいます。『機動戦士ガンダムUC[ユニコーン]』も、アニメはもう目が見えないので観られませんけど、小説は読みました。他にも最近だと『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』がアニメ化されて、観られないのが残念です。見えていた頃に原作の漫画を読んでいたので。

当時、アニメを観始めると、とにかく続けて観てしまう癖があって、しばらく行動不能になってました。人生における生産性を考えると、アニメを観られなくなったことは目が見えなくなってよかったと思える数少ない事柄かもしれないと思うほどです(笑)。目が見えなくなるとわかって凄く落ち込んでいた頃、現実逃避というか引きこもりというか、アニメやゲームに逃げていた時期があったんです。つまりは完全にヲタクだったってことですね。

漫画も好きでした。大学の時は漫画研究会にも入ってましたし。目が見えなくなっていって、どうにも読めなくなってしまった時に意を決して全部捨てましたけど、それまではかなり買い込んでましたね。読んでいた漫画は大判が多くて、有名なのでいうと『ブラックジャックによろしく』、『医龍』などの医療系から、少しマイナーなのだと『サイコ』、『黒鷺死体宅配便』、『低俗霊DAYDREAM』などの角川系、他に『MOONLIGHT MILE』っていう宇宙開発の漫画も結構ハマって読んでました。宇宙開発関係だと『プラネテス』も、あれはNHKでアニメ化されて。やたらと映像が綺麗な作品でしたね。他には当時、『BLACK LAGOON』という漫画が流行っていました。いや、一般的な流行ではないですけど(笑)。簡単にいうとサラリーマンがマフィアになって戦う話で面白かったのを覚えています。ハードなやつだと『HELLSING』というそっちの筋では凄く人気のある漫画があって、それもお気に入りでした。こうやって思い返すと俗にいう成人向けの漫画が多かったんですかね、とにかくかなりの数読んでましたね。

見えなくなってから、興味の対象が変化したと感じます。やはり見た目よりも中身というか。例えばドラマや映画について、目が見えていたときはアイドルとかイケメン俳優が出演していれば、それだけで見ごたえがあって楽しめたんですけど、見えなくなってからはそれだけでは楽しめなくなってしまいました。演技の粗が聞き取れて気になったり、台詞が棒読みだなと感じてしまうと内容が入ってこなくなるんです。無意識ですが、見えてた頃とは違う価値基準があるのかもしれませんね。

あまり作りこんでいないドラマや映画だと集中できなくて、自分でも嫌なんですけど、耳ざとく聞きたいわけでもないのに、どうしても楽しめない時がありますね。

これからのこと、将来の夢

最近は「~家」になりたいんですよね。「~家」ならなんでもいいとさえ思ってます(笑)。例えば小説家、芸術家、写真家、音楽家、政治家、冒険家、いろんな「家」がつく職業がありますけど、そういう何かをやって生きていきたい。今、大学院に在籍していて博士号をとる予定なので、学位取得後はどこかの大学に研究者として席を置きながら、ソーシャルインクルージョン、ダイバーシティ、そういうキーワードをライフワークにしていろんな方面で自分にできる活動を広げていくつもりです。その中で自分の好きなこと、自分が周りにインパクトを与えられることを見つけて「~家」になりたい。それが文章を書くことなのか、何かを作ることなのか、表現することなのか、もしくは何かを訴えかけることなのか。来年東京パラリンピックがあって、その結果を受けてどんなムーブメントが残るのかによっても変わると思いますけど、とにかく自分が何かの形でみなさんのお役に立てるように、社会と自分との位置関係をしっかり把握しながら活躍していきたいと思っています。

わたしたちはこの世界でどのように働きそして遊ぶのか
第一回 職業:パラ競泳選手 名前:富田宇宙